古書買取人までのストーリー。仕組まれた試練その6 これはある古書店で行われているフィクションの修業物語 古書買取 古本見積 大山堂書店

これはある古書店で行われているフィクションの修業物語

薄暗い古本屋のレジ前で若い店員は両手をあげていた。

つまらない店番において両手を頭上高く上げるときと言えば大きなあくびをしたときだけであった。

しかし今日はお客の少ない午後2時過ぎに自分の意志ではなく両手をあげていた。

(どうして手袋をつけたこのお客に気づかなかったのだろう)

若い店員は後悔をしながら、目の前でナイフを突きつけながらレジを開けようとしている猫背の中年男を睨むことしかできなかった。

「お、おじさん。こんな事をしてもすぐに警察に捕まっちゃうよ。うちは防犯とは仲がいいんだから」

「じゃかーしー。黙って手あげとんかい、われ」

この強盗はマスク越しの曇った声で関西弁独特の凄みのある口調でまくしたてた。

「なぜうちみたいなしがない古書店を襲うんですか。多分、銀行の方がお金があるんじゃないかな」

強盗はレジの両替のボタンを押し、お金を取り出せるようにした。

「ここは来客も少ないさかい、誰も古本屋を襲うなんぞ思わんやろ。だいたいわいはな、古本屋っちゅうもんが嫌いなんや。人様の物をやすう買っといてやな、たこう売りつけるやないか。ごっつう、ぼったくりの商売とは思わんか」

「そんな、ぼったくれそうな古書買取があればこんな貧乏はしていませんよ。それに、高く売りつけるなんて、すぐ横の棚の上にある漱石全集なんか定価の半額以下でお安くさせていただいています。あの、お願いですからナイフをどけていただけませんか」

強盗の手の動きが止まって、ナイフをさらに突きつけてきた。

「どけていただきませんかやと。古本屋もいっちょまえに敬語使えるんやな。わいのゆうてる高い本ちゅうのは希少価値があるやつや。それを客を見て値段つけやがって『売ってやる』と言わんばかりに傲慢な態度で売りつけやがる。ほんまにそれが気に食わんのや」

強盗は興奮して声が大きくなっていた。この声に気づいて誰か来てくれることを祈っていたが、相変わらず両手をあげた若い店員と、ナイフとお金を握り締めた強盗だけで、古本屋の店番にはあまり縁のない緊迫感が張り詰めていた。

若い店員は沈黙の緊迫感を嫌い、時間稼ぎと相手の特徴を得るため、また話しかけた。

「この不景気に勘弁してくださいよ、本当に」

「不景気なさかい、わいかてあいさつに来てやっとるんやないか」

数少ない一万円札、五千円札はすでに強盗の短い紺のズボンのポケットにねじ込まれた。ナイフはもう首元にないものの、ナイフの存在自体が若い店員を動かなくさせていた。レジの机越しにさらに身を乗り出して今度は千円札に手を出してきた。頭が近づいてきたときの安っぽいポマードの臭いが、自分の苛立ちと情けなさを助長させる。

「ちょっと待って、強盗さん。お願いだから聞いてください」

「なんや、聞いたろやないか」

千円札を数枚握り締めたまま動きをとめた。

「その手に持ってらっしゃる千円札に描かれているのは夏目漱石ですよね」

「そやからなんや」

「夏目漱石はいけません。古本屋で漱石はそのように扱ってはいけないのです」

強盗は不思議そうに首をかしげ、静かな間が一瞬流れた。若い店員は真顔で続けた。

「その手に握られた千円札の束はさっきまで店先にあった夏目漱石に関する書籍を買っていってくれたお客様が支払ってくれた千円札なのです。つまり、店頭にあった漱石が形を変えてレジに入っていただけなんですから、それは置いていってくださいませんか」

「わははは、おまえも脅かされているわりには面白いこと言うやないか。お金はお金や。漱石やろうが、諭吉やろうが関係あるかい」

「いえ、古本屋にある漱石はそれが本であれお金であれ、漱石が本当に好きな人にしか流通しないものなのです。ちなみに古書業界では、漱石を雑に扱うと罰があたると信じられています」
 
苛立ちによる開き直りと時間稼ぎにしてはよく口から出てきたものだ。

「あほか。しょうむなすぎるわ、ほんまに。ウソは泥棒の始まりやで、わいはもうすぐ泥棒し終わるけどな。ひっ、ひっ、ひっ」

若い店員が止めるのも構わず千円札もポケットに荒々しく突っ込まれ、硬貨に手を付け始めた。

何もできないのだろうか。

こんな時、いつもは鬱陶しい店長だけど助けにきてくれるのではないかと心のどこかで期待していた。


そんな期待が裏切られるとも知らずに・・・。

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古書店で万引はあっても強盗はないと思う。お金置いてないもん。

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