古書買取人までのストーリー。仕組まれた試練その1 これはある古書店で行われているフィクションの修業物語 古書買取 古本見積 大山堂書店

これはある古書店で行われているフィクションの修業物語

「店長、そろそろ僕にも古書買取現場に連れてってくださいよ。店番ばかりじゃなくて仕入れにも行ってみたいんです」

「まだまだじゃ!毎回、わしが仕組んだ試練をお前はほとんど理解しておらぬからの」

若い店員は頭を掻きながら最近の試練を思い出した。

「あれは全部で70冊だったんですね。巻数が65巻だったからつい間違って…。途中で『22巻上』『22巻下』なんてマジありえないっすよ」

「全集が揃いで何冊あるかを巻数で数えてはならんのじゃ。『既刊分の巻しか発行していない』なんていうのもあるしの。これらは一つ一つ全集を覚えるしかないの」


その日もある全集を一巻から並べていく店員。店長は棚にはたきをかけながら、

「ほれ、これじゃ。まだ見落としておる」

とあきれ顔である。

「は? 中の『月報』も書込みも確認したし・・・」

「次に売りやすいようにするのがお前の役目。並びなおしたり中を確認したりするのは当たり前じゃが、もしお前がお客ならこの商品にクレームを入れるかもしれんぞ」

作業ばかりに気を取られていると、やっつけ仕事になっていく。そこには『お客様視点が必要』だと口酸っぱく指導してきている店長であった。

「ん? あ! このカシャカシャした薄いカバーのこと?函に出し入れしているとマジ破けちゃうんすよね」

「それは『パラフィン紙』というんじゃ。本の湿気や汚れを防いでくれるけど、その全集の場合は全ての巻でパラフィン紙を取った方がいいの」

「え?取ったら価値が下がっちゃうんじゃないんすか?」

「稀覯本の初版本じゃあるまいし下がることなどない。汚いパラフィン紙を付けている方がよっぽど見苦しく、クレームになりうる」

店員は全ての巻のパラフィン紙を取ってみたが、なるほど見栄えが良くなっている。

「次にこの全集を買う人はパラフィン紙のあるなしで買うか買わないかを決めるなんてことはほとんどないと思うぞ」

古いパラフィン紙でも付けておけば確かに耐久性は上がるかもしれないが、流通性を考えた場合、希少価値がない書籍のパラフィン紙は取ってしまうことが多い。

「あ!もしかして、このことを試したくてわざわざ古く破れたパラフィン紙を仕組んだんじゃ・・・」

そのことに気付いてくれたことが嬉しかったのか、店長は少し照れながらも

「ふっ、お前もまだまだじゃの」

と、また棚にはたきをかけはじめたのであった。


若い店員の修業はまだまだつづく。

店長が次の修業のためにどんな仕組みを仕込んでいるかも知らずに・・・。

つづく。

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一方で、帯は破れているも残しておくことが多いかな~?

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